マテリアル・プロセスインフォマティクスの概要

 皆さんこんにちは、RAPTOR95です。

 前回は機械学習(#リンク)の概要について説明していきましたが、今回はマテリアルズインフォマティクス(MI)の概要について説明していきます。初学者向けのマテリアルズインフォマティクスの参考書のリンクを貼っておきますので、興味がある方は読んでみてください。

 

 近年、「〇〇インフォマティクス」という言葉を耳にすることが多いかと思いますが、そもそもインフォマティクスとはどういう意味かご存じですか?この文脈でのインフォマティクスは「情報科学」を意味しており、統計分析などの情報科学を駆使して材料を開発することをMIといいます。前回説明した機械学習も情報科学に入るので、MIは機械学習を活用した材料開発だと思ってもらっても、問題ないかと思います。同様に、製造プロセスの最適化などに情報科学を取り込んだ場合にはプロセスインフォマティクス(PI)といいます。近年はMIで新しい材料を発見した論文や、PIで製造や合成条件を最適化した論文が数多く出ております。

 研究開発において、MIやPIがどういった位置づけになるのかを説明します。研究開発を分類わけすると図1のようになり、誰が(人間 or コンピュータ)どんな方法(演繹的 or 帰納的)で研究開発しているかで分けております。例えば、コンピュータが演繹的に研究開発しているのが計算科学、人が実験によってさまざまなデータを取得し、得られたデータから「なぜこんな結果になったのか」を逆説的に考えるのが実験科学になります。機械学習は帰納的アプローチをコンピュータで実施する部分に分類できるかと思います。ここからは、MIとPIのそれぞれの研究例を紹介します。

図1 研究手法の分類

 <MI>

「Descriptors for dielectric constants of perovskite-type oxides by materials informatics with first-principles density functional theory」というタイトルの論文1)で、NIMSの野田さん等の研究成果になります。本論文はNIMSの野田さんの論文で、ペロブスカイト構造を有する酸化物(ABO3:AとBはそれぞれ金属元素を示す)の誘電定数を予測する機械学習モデルを作成する研究です。さらに予測モデルを作成するだけでなく、予測に使った変数の中から、どの変数の寄与が大きかったかを調べております。このように、機械学習は物性を予測するだけではなく、その物性に寄与する因子を調べることができます。

 <PI>

 「Realization of closed-loop optimization of epitaxial titanium nitride thin-film growth via machine learning」というタイトルの論文2)で、NIMSの大久保さん等の研究成果になります。こちらの論文は、ベイズ最適化と呼ばれる手法を用いて、なるべく少ない回数でTiN薄膜の結晶性が最大になる実験条件を探索する論文になります。ベイズ最適化は後に本ブログで取り扱う予定ですが、簡単に概要を説明すると、ガウス過程回帰を用いて、目的変数が最大になる可能性が高そうな実験条件を導出する手法です。加えてこの論文で面白いところが、実験→評価→次の実験条件導出→実験の流れがすべて自動化されていることです。このようなシステムは「closed-loop optimization」と呼ばれており、今注目されている研究テーマの一つになります。

 今回は、MIとPIの概要を説明し、それぞれの研究例を紹介しました。機械学習の勉強を進めないとこれらの論文の詳細は、説明してもよくわからないと思うので、それは別の機会にします。次回から、実際に機械学習を自分の手で実行するための準備を進めていきますので、続けて読んでもらえると嬉しいです。

              <参考文献>

  1. Y. Noda, et.al. Descriptors for dielectric constants of perovskite-type oxides by materials informatics with first-principles density functional theory, Sci. Thecnol. Adv. Mater. 21 (2020) 99
  2. I. Ohkubo et al. Realization of closed-loop optimization of epitaxial titanium nitride thin-film growth via machine learning, Matrerials Today Physics, 16 (2021) 100296s